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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)128号 判決

控訴人 日東産業株式会社

被控訴人 隊友産業株式会社

主文

原判決を取り消す。

本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、控訴会社代理人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が、昭和四一年九月二八日、神戸地方裁判所昭和四一年(ヲ)第一九五三号不動産引渡命令の正本にもとづき、別紙目録〈省略〉記載の不動産に対してした執行を許さない。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴会社代理人

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の事実上および法律上の主張

一、控訴会社代理人

原判決は、民訴法六八七条により発せられた不動産引渡命令の性質が執行の方法で債務名義でないことを理由に、該命令に対する第三者異議の訴は許されない、としているが、みぎは、不動産引渡命令の相手方とされた者すなわち、本件では訴外亡芝崎保茂についてそういえるのであつて、控訴会社のように、不動産引渡命令の相手方でない第三者は別である。不動産引渡命令を債務名義と解する学説(通説)に立脚すれば、当然控訴会社は第三者異議の訴を提起できるわけであるが、不動産引渡命令を執行処分と解しても、みぎと同様に解するのが条理に合致する。

二、被控訴会社代理人

控訴会社の代表者であつたみぎ芝崎保茂は、昭和三九年五月一四日、本件不動産について現状不変更の仮処分の執行を受けた際、執行吏に、自己とその家族しか本件不動産を占有使用していないと述べ、又、同訴外人は、昭和四一年二月一八日、被控訴会社代表者山下陽三から現金五〇万円を借り入れる際、返済不能のときは、本件不動産を明け渡すことを約束し、控訴会社が占有していることには、何ら言及しなかつた。それだのに本件で、控訴会社が同訴外人から賃借して占有していると主張するのは、禁反言の原則に反するといわなければならない。

三、みぎのほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。

理由

一、別紙目録記載の不動産は、もと訴外亡芝崎保茂の所有であつたが、被控訴会社が、神戸地方裁判所昭和四〇年(ヌ)第九号不動産競売事件で、これを競落したところ、この競落許可決定は、昭和四〇年七月一九日にされたので、被控訴会社は、同年八月四日競落代金を納入し、同月一九日その旨の所有権移転登記手続をへたことは、控訴会社が明らかに争わないから自白したものとみなす。

被控訴会社が、昭和四一年九月二八日、みぎ芝崎保茂に対する同裁判所昭和四一年(ヲ)第一九五三号不動産引渡命令の正本にもとづき、本件不動産の引渡しの執行をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、控訴会社の本件第三者異議の訴の適否について判断する。

(一)民訴法第六八七条による不動産引渡命令の性質は、債務名義ではなく、執行官に対する職務命令としての執行処分と解するのが相当である(最判昭和三八年三月二九日民集一七巻四二六頁)が、このことと、不動産引渡命令の当事者以外の第三者が、目的物の引渡しを妨げる権利で競落人に対抗できるものを主張して、第三者異議の訴を提起することができるかどうかは、別個の問題であるといれなけわばならない。原判決は、最判昭和三五年八月四日最高裁裁判集民事四三号四九七頁を引用しているが、同判決が、不動産引渡命令の性質を執行処分としたうえ、第三者異議の訴の提起を否定したのは、不動産引渡命令の相手方とされたものがした第三者異議の訴に関してであつて、このような者は、当該執行については第三者でないことが明らかで、この者がみぎ執行を争う方法は、民訴法五四四条によるべきことは当然であるが、みぎのような相手方でないものがした第三者異議の訴については、何らふれていないのである(原判決の判断はこの点で誤りを犯している。)。

(二)元来執行は、債務者の責任財産に対してだけされるべきものであつて、ある物が債務者の責任財産に表見的にはともかく、実体的に帰属しない、または、帰属していても債権者の執行を妨げる権利をその物の上にもつていることを主張して、この物に対する執行を排除するため設けられた法律制度が、第三者異議の訴であるから、この訴を提起できるのは、執行当事者以外の第三者に限られるとするのが正当である。もつとも、執行債務者でも第三者異議の訴を提起することができる場合がある(たとえば、限定承認をした債務者の固有財産に対し執行された場合とか、受託者の信託財産に対し執行された場合など)が、それは、執行債務者がその執行に対する関係で第三者としての立場に立つからであつて、執行債務者が、みぎのような第三者の立場に立つことなく、債務者の立場のままで第三者異議の訴を提起することは許されない。この理は、物の引渡請求についての執行にも妥当する。

(三)他方、みぎのような意味の第三者が、第三者異議の訴を提起できるのは、具体的執行の排除を求める以上、債務名義による執行のみに限る至当性はなく、不動産引渡命令のような執行処分による執行に対してもできると解するのが相当である。

そのわけは次のとおりである。

(1)  不動産引渡命令の執行について、強制執行の総則規定である第三者異議の訴の規定(民訴法五四九条)の適用を排除した条文がない。

(2)  不動産引渡請求権の執行は、民訴法七三一条によつてされ、この執行について、第三者異議の訴を提起することができるのは、みぎのとおり第三者異議の訴を規定する民訴法五四九条が強制執行の総則規定であることから、当然導かれる。ところで、不動産引渡命令も、その具体的執行は、これと同様に民訴法七三一条によつてされる。それだのに、後者について、不動産引渡命令が債務名義でないことを唯一の理由に、第三者異議の訴が提起できないとして、両者を区別する合理的理由は見出し難い。

(3)  さきに述べたような第三者に、不動産引渡命令の執行に対する第三者異議の訴の提起を認めることは、違法な執行から第三者を速かに救済することをはかる第三者異議の訴の制度の目的に合致する。

(4)  第三者は、執行債務者に代位して(民法四二三条)民訴法五四四条による執行方法の異議を申し立て、同法五二二条二項による仮処分をうることができるが、そのような救済方法が第三者に開かれているからといつて、第三者に対し、第三者異議の訴の提起を認めて同法五四九条三項、五四七条による執行に関する仮の処分をうる手段を閉ざすべき理由はない。

(四)今、この視点に立つて本件を観察する。

本件不動産引渡命令の執行債務者は、芝崎保茂であつて、控訴会社は本件競売申立て前である昭和三五年四月一七日から、同人より本件不動産を賃借しているというのであるから、控訴会社は、本件不動産引渡命令の執行との関係では第三者であることは明らかである。

したがつて、控訴会社の本件第三者異議の訴は適法であるとしなければならない。

(五)そうすると、これと異なる原判決は取消しを免れない。

三、原判決は、控訴会社の本件請求を棄却しているが、その理由は、控訴会社は第三者異議の訴を提起することが許されないというのであるから、原判決は本件訴を不適法として却下したものとみるべきである。

そうすると、民訴法三八八条により、当裁判所は、本件を第一審裁判所である神戸地方裁判所に差し戻さなければならないわけである。

そこで主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 長瀬清澄 古崎慶長)

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